琴海の嵐(16)

渡辺昇は、練兵館塾頭時代に異色の友人ができました。それが、後に新撰組の局長となる近藤勇(天保5年(1834)~ 慶応4年(1868))です。 近藤勇 Wikipedia より 近藤勇は、武蔵の国、多摩郡上石原(現、調布市)の農家の生まれですが、剣術が好きで、天然…

琴海の嵐(15)

練兵館塾頭に就任した渡辺昇は、いくつかの藩の藩邸に出稽古に行きましたが、なかでも、水戸藩上屋敷(現、小石川後楽園から東京ドーム、後楽園遊園地一帯)へは、斎藤弥九郎が水戸斉昭と親しかった関係で、出かけたようです。これは、塾頭時代の桂小五郎も…

琴海の嵐(14)

昇は、練兵館塾頭に就任するや、交友の範囲が広がっていきました。それは、まず、練兵館創始者の初代斎藤弥九郎(篤信斎)の関係先から始まり、次いで、桂小五郎の活動範囲とも重なってきます。 篤信斎は、練兵館道場の創設にあたって資金援助をしてくれた伊…

琴海の嵐(13)

安政7年(1860)3月3日、江戸城桜田門の手前で大老井伊直弼が水戸藩浪士らに討取られる事件が発生しましたが、その後、幕府は、世の不吉さを振り払おうとしたのか、朝廷に願い出て、3月18日に元号が万延と改元されました。 しかし、そのような幕府…

琴海の嵐(12)

さて、江戸の昇はどうなったのでしょうか。 昇が練兵館の塾頭になったのは、安政7年1月ではないかと思われます。塾頭になれば、大村藩邸からの通勤というのは許されません。塾頭は、塾長である斎藤弥九郎に代わって塾生の剣の指導をするのが第一の役目です…

琴海の嵐(11)

大村藩は、幕府によって、他の藩にはない独特の役割を命じられていました。それは、隣接地である天領、長崎の警護という役目です。 幕府にとって、鎖国時代、外国との唯一の窓口であった長崎は、貿易がもたらす富を独占するという意味でも重要な場所でした。…

琴海の嵐(10)

ここで、昇の生まれ育った大村藩について触れておきます。 まず、藩域を地図で示しましょう。 大村市観光振興課「大村観光ナビ」よりこの地図でわかるように、大村藩域は広大です。琴海(大村湾)を挟んで、西側の西彼杵半島の全域から五島灘の島しょ部、さ…

琴海の嵐(9)

昇が大村藩邸での幽閉を解かれて、練兵館にも顔を出すようになるのは、安政6年(1859)5月のことでした。 この頃、小五郎は多忙を極めていました。長州藩江戸藩邸(現在の日比谷公園あたり)の大検使役という(今の会社でいう監査役か)役職に就いてい…

琴海の嵐(8)

昇が、門限を大幅に遅れて帰邸すると、その報告を受けた江戸家老の浅田弥次右衛門は、即座に「牢に閉じ込めよ」と邸吏に命じました。無論、昇の佩刀は二本共に取り上げられました。 翌日、浅田家老が直々に立ち合って、昇に対する糾問の場が設けられました。…

琴海の嵐(7)(訂正)

安政6年(1859)1月のある日と思われますが、練兵館の稽古を終わると、小五郎が昇に「今夜、さる藩の御重役に呼ばれている。ついでだから、お主を紹介しておこう」と言い、呉服橋御門龍ノ口にある大垣藩上屋敷に同道しました。 案内された先は、大垣藩…

琴海の嵐(6)

渡辺昇が出府した当時、大村藩江戸藩邸には、江戸家老として、浅田弥次右衛門という宿老がいました。禄高は二百石余で、大藩の家老職と比べれば少ない禄高ですが、大村藩では、なかなかの実力者でした。 この浅田家老が、悉く、昇にあたるのでした。多分に、…

琴海の嵐(5)

安政5年(1858)、渡辺昇は、当時、大村藩の用人を務めていた父雄太夫の藩務での出府に供する形で江戸に出ました。藩費による剣術修行を命じられての出府でしたが、昇の本心は、学問を修めることにありました。 というのも、昇は、大村藩の藩校、五教館…

琴海の嵐(4)

斎藤弥九郎氷見出身、寛政10年(1798)~明治4年(1871) 斎藤弥九郎の男子、新太郎(二代目斎藤弥九郎)、歓之助、四郎之助、五郎之助 渡辺昇は、身長が6尺(約180cm)以上で、当時としては圧倒的な体躯を持ち、その身体で練兵館道場の並み居る剣士た…

琴海の嵐(3)

渡辺昇の父は渡辺雄太夫(後、巌)といい、大村藩の馬廻(うままわり)30石程度の中級家臣団の家柄の次男として生まれました。長男は、清左衛門(後、清)といい、昇とは腹違いで、3歳違いです。多分、清左衛門の母は、清左衛門を産んで、すぐに亡くなっ…

渡辺昇と鞍馬天狗の写真

渡辺昇:大村市歴史資料館蔵 映画「鞍馬天狗」(嵐寛寿郎)Wikipedia より 「琴海の嵐」の主人公、渡辺昇(天保9年4月8日〈1838年5月1日〉 - 大正2年〈1913年〉11月10日)は、実在の人物で、渡辺昇の写真をアップします。 ついでに、映画における鞍馬天狗(…

時代小説「琴海の嵐」を出版しました。

時代小説「琴海の嵐」を2023年12月に文芸社より、出版しました。主人公は、渡辺昇。大佛(おさらぎ)次郎(じろう)の「鞍馬天狗」のモデルとされる人物です。表題の「琴海」とは長崎県の大村湾のことで、渡辺昇は琴海を擁する大村藩に生まれました。渡辺…